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APIエコシステムの最前線~AT&TにみるIoT時代のAPIエコシステム~

2015/03/04

AT&T_Top

こんにちは、まつのです。

gooラボでは、実サービスで利用している日本語解析などをAPIとして公開していますが、今ではIT/Web業界の潮流として、Web・モバイルを問わずAPIを公開する企業が増えています。ローンチと同時にAPI公開する企業もあり、感覚としてはAPI公開が当たり前なフェーズに入ってきていると感じます。

なぜAPIを公開するのか?

ここには提供する企業の狙いや思惑がありますが、一般的な話としては、外部パートナーや開発者を囲い込み、サービス(ビジネス)の拡張と収益の面での恩恵を受けたいことにあります。実際、GoogleやTwitterはAPIエコシステムが上手く回っている企業のひとつだと思います。

今回、CESの視察と共にAT&Tが主催する開発者向けカンファレンスに参加してきました。AT&Tは米国の通信会社(電話会社)です。米国の通信会社として初めてディベロッパー向けプログラムを立ち上げた同社は、音声、SMS/MMSのメッセージ、デバイスのパフォーマンスや遅延、バッテリー消費量の分析など通信会社ならではのAPIを提供し、開発者や外部パートナーの囲い込みに成功している企業として取り上げられたりします。

本稿では、基調講演の内容をレポートします。

2015 AT&T Developer Summit

AT&Tは、毎年1月にラスベガスで開催される家電・情報・通信・エレクトロニクスに関する総合展示会「CES」に合わせて、「AT&T Developer Summit」を開催しています。2011年のCESにてAPI戦略とプロトタイプを披露し、2012年にAPI Platformを公開しています。

「2015 AT&T Developer Summit」
日程:2015年1月3日~5日 @ Palms Casino Resort
内容:ハッカソン、キーノート、カンファレンス、展示
公式サイト:https://devsummit.att.com/

最初の2日間でハッカソンが行われ、最終日にカンファレンスが行われ、トータル3日間開催されます。ハッカソンは700人以上の参加があり、今回発表されたコネクテッドカー(Connected Car) やIoT関連のAPIが利用できたようです。

キーワードは「Mobile」「IoT(Internet of things)」

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キーノートスピーチはAT&T Mobile&Business SolutionsのPresident&CEO,Ralph de la vega氏。

Netscape Navigatorを開発したマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)が数年前に発言した“Software is eating the world.” を用いて、今は “mobile is eating the world.”という新しいセオリーに変わったと。
そして、モバイルが既存のビジネスを破壊している最たる例として、AirbnbやUberを取り上げ、AT&Tはこれらの変化を導くベストポジションに位置していると宣言。

AT&T

AT&Tは高セキュリティでもって、あらゆるデバイスとあらゆるクラウドサービス、特にエンタープライズ向けのサービス事業者を繋げていくとのこと。これにより企業や開発者、パートナーの間でバーチャルでのコラボレーションが可能となり、ビジネスを拡大させることができるエコシステムになるとしています。AT&Tは6年間でモバイルクラウドに1400億ドルの投資をするようです。

IoTはどうやってマネタイズするのか?

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次はIoTをテーマにパネルディスカッション。
クアルコムのCEO Steve Mollenkopf氏、シスコのCTO Padmasree Warrior氏、IoTプラットフォームのスマートシングスのCEO Alex Hawkinson氏とシリコンバレーでトップVCの1つに挙げられるAndreessen HorowitzのBenedict Evans氏を交えた豪華なセッション。

ここでは、下記3点が議論されていました。
・マネタイズ(How do we monetize IoT?)
・セキュリティ(What about security?)
・カスタマーエクスペリエンス(What about the customer experience?)

冒頭に、司会者のGlen Lurie氏(CEO of AT&T Mobility)が現時点ではIoTは初期段階ではあるが、これがインターネットの未来であり、開発者にとっての巨大な機会になることは明らかだと強調しました。

Hawkinson氏(SmartThings)は、最大の課題は使用方法や意識のしやすさであるとし、我々が見えているデバイスの多くが、制限されたエコシステムに接続しているという点でIoTはユニークな位置にあるとしている。そこで鍵となるのは、様々なモノにつながり易くするための規格が必要であり、また、それはオープンでスケーラブルである必要があるとのこと。これについて他のパネラー達は同意していました。

IoTのセキュリティについては、より個人的なものとの関連が強くなるセキュアなデータになるため、動的に統合できる新しいソリューションを実現するプラットフォームになっていくだろうと、Warrior氏(Cisco)は言う。

最後にマネタイズの議論では、「ユーザーは良いことを成し遂げるものにはお金を支払う」とした上で、ユーザーのより良い体験価値を提供するアプリを作ることが重要と。そして、IoTの世界では沢山の勝者をうむであろうとHawkinson氏は言う。
司会者が「誰が勝者になる?」の質問にEvans氏(Andressen Horowitz)が「The consumer」と答えたことに納得がいきます。

新しいAPIツール

AT&T

最後に、マーケティングの最高責任者であるDavid Christophe氏より「コネクテッドカー」「デジタルライフ」「WebRTC」におけるAPIツールの説明がされました。

・AT&T Drive APIs
異なる車メーカーとモデルでも統一された体験を提供できるように標準化されたフレームワークとUIキットを提供。
AT&T Drive APIsは、開発者サイト上のサンドボックスで利用可能です。
http://www.att.com/edo/drivestudiocontact/

・Digital Life APIs
前日のハッカソンで利用できたようで、スマートデバイスからステータス状況を送る機能や、デジタルライフデバイスのアプリケーション層を管理する機能、温度や消費電力コストを管理する機能などが提供されたようです。

・WebRTC API
今回、新しいAPIとしてベータ版が公開された模様。ピアーtoピアーまたはブラウザtoブラウザのみならず、固定電話と携帯電話番号への通信まで拡張され、開発者は発信者IDを扱うことができ、簡単にコンピューターから携帯電話に呼び出しを転送させたりすることが可能。

詳細はAT&Tの開発者向けサイトから入手できます。
http://developer.att.com/

WebRTCは通信会社らしい取り組みですが、Drive APIsにみられる自動車やDigital life APIsにみられる家電や家といった事業領域まで広げて取り組む姿は通信会社らしからぬ一面を見ました。

展示ブースの風景

今年のサミットのテーマである「コネクテッドホーム」「ウェアラブル」「コネクテッドカー」「WebRTC」「IoT」の5つのカテゴリーに分かれ、開発者向けツールやAT&Tのアライアンス/パートナー企業が提供するサービスが展示されていました。

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おわりに

ネット企業やハイテク企業が開発者向けにカンファレンスを開催することが定番化している中、AT&TがAPIを公開した2012年から毎年開催される本イベントはAPIにフォーカスしているのがユニークな点だと思います。そして、常に新しいAPIが発表される凄みを感じました(今年はWebRTC API)。基調講演以外にイベント内で開かれていたテーマ別カンファレンスの中で、マネタイズはできているのか?という少し嫌味な質問が度々聞かれましたが、開発者を呼び込むことで、アライアンス先や顧客が増えるエコシステムを積み上げようとすることは、目先のマネタイズ以上に取り組むべき価値があるのではないかと思います。